Vストローム1050XTに付いてるIMUの役割
若い頃、かなりバイクで遊んでいた(本人談)年上の職場先輩と以下のようなやり取りが有りました。
先輩「お前のバイク、IMUが付いているんだろう?」
(乗らないくせにバイク雑誌をチェックしているとは・・・IMUとか知ってるんだ)
私「そーなんですよ。何せ150万しますからねー。ムフフ」
先輩「ちっ(クソガキが)。で、Vストに何でIMUが付いているんだよ?サーキットでタイム詰めるのかよ?有り得ねー。ガハハハッ」
私「いやいや、そんな用途ではなくてですね・・・えーっと・・・たぶん・・・そーいえば・・・ あっ電話掛かってきた・・・」
バイクを買う前、穴があくほど見ていたパンフレットにゴニョゴニョ書いて有りましたが、まったく記憶に残っていません。忸怩たる思いです。スズキさん、もっと記憶に残るようアピール強めにガツンと書いてください。(いやいや自分が悪いんです。)
で、IMUはVストに何の恩恵をもたらしているのでしょうか。
最近の豪華なバイクには、IMU搭載が必然のようになってきていますね。IMUは、車両の動きと姿勢を測るセンサーです。動きと姿勢の時系列変化が分かれば、車両が今どのような走行状態に置かれているか把握できる、ってことなんでしょう。下図はVストの6軸センサーのイメージです。前モデルからセンサーが一世代新しくなりました。
だから?で?
走行状態が分かったところで、それを何に役立てているのか?もう一度パンフレットを見直しました。結論は、ブレーキに対して役立てています。トラクションコントロールは適用外です。
IMUが取得したデータは、ABSコントロールユニットへ送られます。そして以下のお仕事に役立てられます。
へー、あっそー、モーショントラックなんちゃらは、ちょっと格好良いんですが、カタカナが多すぎて最後まで読めません。意訳しつつ日本語に直します。
- a) ブレーキレバーだけ握ってもリアブレーキを効かせますよ
b) コーナーで握りごけさせません - いつものレバー操作で制動距離が伸びそうならリアブレーキを効かせます
- 上り坂で発進する時は、リアブレーキを効かせますんで、発進操作に集中してください。良い塩梅でリアブレーキを解除しますんで
- リアタイヤが浮かないようにしますね
となりました。確かに車両の動きと姿勢が分からないと出来ない制御ですね。コーナーとか、上り坂とか・・・ぶっちゃけ、期待外れ・・・いら・・な・・・・い?
より安全になり、便利になったとの解釈でよろしいかと。
リアブレーキが勝手に仕事をしていますが、ブレーキペダルを操作していないのにどうしてリアブレーキが効くのでしょうか?
マスターシリンダーを機械的・電気的に押すのでしょうか?
リアキャリパのピストンが機械的・電気的に動くのでしょうか?
油圧を発生させるポンプが別に付いているのでしょうか?
業界の方々は既知、周知の機構なんでしょうが、一般人の私には???です。調べても詳しい解説が中々出てきません。Vスト1050xtに限って調べました。むしろこれが今回の本題です。
まずはサービスマニュアル。英国だか米国だかのファンクラブHPにしかと掲載されています。いつもお世話になっております、感謝です。サービスマニュアルにABSの油圧回路図が載っています。まずは、それをどーぞ。
実線がフルードの配管ルート、破線が電気信号となります。
油圧を発生させるハイドロリックユニット(HU)とABSコントロールユニットは一体です。シートの下に鎮座しています。
油圧回路図を見慣れている方ならすぐ分かるのですが、ABSのポンプを利用して圧をリアキャリパに送ります。本来ABSのポンプは、ホイールがロックしそうになると、圧を下げるためのものです。その回路にスイッチングバルブを2個追加させただけで、圧を抜くのも掛けるのも自在にやってしまう、というシンプルな機構です。
リアブレーキシステムだけ拡大して解説します。通常時(エンジンオフ時も)のバルブは以下の状態となります。スイッチングバルブ①と入口バルブは常時開です。スイッチングバルブ②と出口バルブは常時閉です。
この状態でペダルを操作すると、マスターシリンダで発生した圧力は、ABSユニットを伝ってリアキャリパへ伝わります。
次に、リアタイヤがロックしそうになり圧を抜く動作を解説します。
モータが駆動し、ポンプの矢印方向にフルードを圧送します。同時に入口バルブが閉、出口バルブが開になります。マスターが戻されるので足に反動が伝わります。
ABSが作動すると、”通常時”と”圧を抜く時”の動作を交互に繰り返すため、ペダルを踏んでいる足やレバーを握っている指に感覚で伝わりますよね。
次に、ポンプだけでキャリパに圧を送る動作を解説します。
モータが駆動し、ポンプの矢印の方向にフルードを圧送します。同時にスイッチングバルブが閉、スイッチングバルブ②が開になります。アキュームレータという一時的な貯蔵庫から不足分のフルードは送られます。この動作中にペダルを操作しても、ポンプの圧が逆流しない回路となっております。
ブレーキペダルを操作しないで、なぜリアブレーキが効くのかは、ABSのポンプを利用していることが判明しました。普通のABSユニットにソレノイドバルブ(スイッチングバルブ①と②)を2個追加しただけですが、この制御のベースにIMUの情報があってこそ、と考えられます。また上流、下流のフルード液圧の情報、車輪速センサの情報、これらを組み合わせて制御ロジックや作動マップが出来ていることを考えると、スズキとボッシュに足を向けて寝られないですね。
Vスト1050XTのリアブレーキシステムを考察してみました。誤った解釈があるかもしれませんがご容赦ください。最近のバイク用ABSでは一般的な機構なのでしょうか。油圧回路図とバルブの動きを組み合わせて考えていくと、とても面白かったです。
で、結局恩恵は?
となりますと、坂道発進でバイクがリアブレーキを掛けていてくれるんで、とても楽です。と言いたいとこですが、坂道発進なんぞもう慣れてます。
そこまでハードに走らないのでコーナーでのABSやリアタイヤリフト抑制など不要・・・。雨の日はバイクが汚れるので基本走らない・・・。恩恵は・・・王道ボッシュのブレーキシステム少し廉価版を使ってるぜ、と自慢出来るぐらいですかね。ただしIMUはとても良い物で、ボッシュの”MM7.10”でした。CBRやZX-10Rと同じでしょう。(ひょっとして、ほとんどコレ?)制御は全く別次元なんでしょうが・・・。
標題「何のためにIMU付いているの?」
解答「物欲を満たすため」
「安全性を高めるため」 辺りの解答が正解だと思いました。
<回路を見て思うのが、HUのリアシステム内にエアーが混入すると、悲惨な
ことになるでしょう。くれぐれもご注意ください。>